2003-10-16
おしゃれとクール
『クール・ルールズ』についてもう一度。
ぼくの小さい頃は,「おしゃれ」という語は純粋な誉め言葉じゃなくて,そう言われたらどこか気恥ずかしさを覚えるような言葉だったと思う。それがふつうの誉め言葉になったのは80年代後半以降だという感覚がある。たぶん,「おしゃれ」をするのは金持ってる家の子で,金を持ってるのはちょっと後ろめたいこと,みたいな空気があったんじゃないだろうか。で,世の中全体が金持ちになった気分の時代になると,「おしゃれ」の中身がわかるようになって(差異化),ポジティブな意味合いが支配的になった,という。
これに対して「クール」は,まだなじみのない外来語の域を出ていない。これを包括的に解説してくれたのが,『クール・ルールズ』である。本屋ではカルチュラル・スタディーズの棚にあるのかな。予想以上におもしろかった。「60年代カウンターカルチャーが現在では支配的なカルチャーになっている」なんて単純な主張以上のものが多く含まれているので,読んで損はないと思う。著者の一人である Dick Pountain は,コンピュータ,音楽,文学,映画などにも造詣が深いらしく,日本でいうと岩谷宏みたいな存在か,と思うとなんか読むのがいやになるが,世代としては近い。
大雑把に言うと,「クール」という態度は防衛機制としての面が大きいのだそうだ。単純に「かっこいい」というだけじゃなくて,原義から冷淡・無関心という側面を引き継いでいるという点が重要。その起源はおそらく西アフリカにあるというところにも触れた上で,この概念の近年の広がりを観察する。最初,どうして50年代のジェームズ・ディーンが表紙なんだろうと思ったんだよね。
ではなぜこういう一見矛盾した行動がとれるのか。こういうライフスタイルを具現したアメリカの有名人として本書で挙げられているのは,ビル・クリントンとか,スティーブ・ジョブズなど。で,著者によれば,その答えは簡単。「クール」がそれを支える原理なのである。「クール」という概念については,この箇所に至るまでに西アフリカの起源にまでさかのぼってていねいに説明してくれているので,実に腑に落ちる。著者はジャーナリストであって学者ではないから,根拠を説明するような記述はそんなにない。傍証というか状況証拠として提示されているものは多いので,腑に落ちるのはそのためかもしれない。
日本でもこの2つを両立させている層というのは確実にいるはずだと思うが,年齢層からいうとジョブズやクリントンと同年代とは思えない。金持ちになった時期がアメリカより遅いから,今の40代ではまだ層としての厚みがそんなにないような気がする。
訳(鈴木晶)はちょっと雑かもしれないが別に気にならない。ただ,邦題はちょっといただけない。この rule は自動詞で,「クールが(すべてを)支配する」ととるのが本来の意味だと思うけれども,rule を名詞と考えて「クールな諸ルール」という意味にもとれて,そういう含みを持たせるためにあえてカタカナのままにしたようだけど,そこまでの配慮は必要ないだろう。帯にあるように「クールでなければ生きていけない」で十分だと思うが。
|
ぼくの小さい頃は,「おしゃれ」という語は純粋な誉め言葉じゃなくて,そう言われたらどこか気恥ずかしさを覚えるような言葉だったと思う。それがふつうの誉め言葉になったのは80年代後半以降だという感覚がある。たぶん,「おしゃれ」をするのは金持ってる家の子で,金を持ってるのはちょっと後ろめたいこと,みたいな空気があったんじゃないだろうか。で,世の中全体が金持ちになった気分の時代になると,「おしゃれ」の中身がわかるようになって(差異化),ポジティブな意味合いが支配的になった,という。
これに対して「クール」は,まだなじみのない外来語の域を出ていない。これを包括的に解説してくれたのが,『クール・ルールズ』である。本屋ではカルチュラル・スタディーズの棚にあるのかな。予想以上におもしろかった。「60年代カウンターカルチャーが現在では支配的なカルチャーになっている」なんて単純な主張以上のものが多く含まれているので,読んで損はないと思う。著者の一人である Dick Pountain は,コンピュータ,音楽,文学,映画などにも造詣が深いらしく,日本でいうと岩谷宏みたいな存在か,と思うとなんか読むのがいやになるが,世代としては近い。
大雑把に言うと,「クール」という態度は防衛機制としての面が大きいのだそうだ。単純に「かっこいい」というだけじゃなくて,原義から冷淡・無関心という側面を引き継いでいるという点が重要。その起源はおそらく西アフリカにあるというところにも触れた上で,この概念の近年の広がりを観察する。最初,どうして50年代のジェームズ・ディーンが表紙なんだろうと思ったんだよね。
プリンストン大学高等研究所のマーク・リラは,(中略)戦後のアメリカを変容させてきた2つの革命--60年代の「文化」革命と,80年代のレーガン大統領による新自由主義的経済革命--をじっくり考察し,これらの革命が現在に及ぼしている影響について,アメリカの政界は左派・右派とも政治的反応が不適切だと厳しく批判している。(中略)リラによれば,アメリカの若者たちは日常生活でこの2つをなんの苦もなく両立させ,「自由なグローバル経済の中で日々の仕事をきちんと務め,60年代に作られた道徳と文化の世界にどっぷり浸って週末を過ごす」のだという。(p.240)
ではなぜこういう一見矛盾した行動がとれるのか。こういうライフスタイルを具現したアメリカの有名人として本書で挙げられているのは,ビル・クリントンとか,スティーブ・ジョブズなど。で,著者によれば,その答えは簡単。「クール」がそれを支える原理なのである。「クール」という概念については,この箇所に至るまでに西アフリカの起源にまでさかのぼってていねいに説明してくれているので,実に腑に落ちる。著者はジャーナリストであって学者ではないから,根拠を説明するような記述はそんなにない。傍証というか状況証拠として提示されているものは多いので,腑に落ちるのはそのためかもしれない。
日本でもこの2つを両立させている層というのは確実にいるはずだと思うが,年齢層からいうとジョブズやクリントンと同年代とは思えない。金持ちになった時期がアメリカより遅いから,今の40代ではまだ層としての厚みがそんなにないような気がする。
訳(鈴木晶)はちょっと雑かもしれないが別に気にならない。ただ,邦題はちょっといただけない。この rule は自動詞で,「クールが(すべてを)支配する」ととるのが本来の意味だと思うけれども,rule を名詞と考えて「クールな諸ルール」という意味にもとれて,そういう含みを持たせるためにあえてカタカナのままにしたようだけど,そこまでの配慮は必要ないだろう。帯にあるように「クールでなければ生きていけない」で十分だと思うが。
|
2003-10-13
ジャズミュージシャンと麻薬
薬といえば,五十嵐一生。
Japanese Little Miles.
背は低いがスタイリッシュなジャズ・トランペッターで,和田誠監督・真田広之主演の映画『真夜中まで』では音楽監督を務めた。国立音楽大学ではニュータイド・ジャズ・オーケストラを率いて活躍していて,ステージを憧れのまなざしで見つめていた女性も多かったはずだ。
しばらく前に公式サイトの更新が止まっていて,どうしたのかと思っていたが,7月に覚醒剤の所持・使用で逮捕されていた。
裁判官の温情によってライヴの前に執行猶予つきの有罪判決が下ったということで少し話題になった(asahi.com の記事)が,終戦直後じゃあるまいし,覚醒剤というのはかっこ悪すぎる。音楽のためにコカインをやったとかいうのなら納得はいく。ビル・エヴァンズにしてもスタン・ゲッツにしても,あの音楽の素晴らしさとコカインには実は密接なつながりがあるという説を読んだことがある。奥成達だったか。
人間不信と経済的な不安が強まってアンフェタミンに走ったのだという。音楽が理由じゃないことが悲しい。サイトの更新停止自体は,事件よりずいぶん前のことだから関係ないとは思うが,「人間不信」をもらたした要素と関連はあるのかもしれない。彼のような才能のある人間が潰されないように,音楽に専念できるような環境を作りたい。といって今ぼくに何かめざましいことができるわけではないが,CDを買うとか,blogで紹介するとか,地道にやろう。
|
Japanese Little Miles.
背は低いがスタイリッシュなジャズ・トランペッターで,和田誠監督・真田広之主演の映画『真夜中まで』では音楽監督を務めた。国立音楽大学ではニュータイド・ジャズ・オーケストラを率いて活躍していて,ステージを憧れのまなざしで見つめていた女性も多かったはずだ。
しばらく前に公式サイトの更新が止まっていて,どうしたのかと思っていたが,7月に覚醒剤の所持・使用で逮捕されていた。
裁判官の温情によってライヴの前に執行猶予つきの有罪判決が下ったということで少し話題になった(asahi.com の記事)が,終戦直後じゃあるまいし,覚醒剤というのはかっこ悪すぎる。音楽のためにコカインをやったとかいうのなら納得はいく。ビル・エヴァンズにしてもスタン・ゲッツにしても,あの音楽の素晴らしさとコカインには実は密接なつながりがあるという説を読んだことがある。奥成達だったか。
人間不信と経済的な不安が強まってアンフェタミンに走ったのだという。音楽が理由じゃないことが悲しい。サイトの更新停止自体は,事件よりずいぶん前のことだから関係ないとは思うが,「人間不信」をもらたした要素と関連はあるのかもしれない。彼のような才能のある人間が潰されないように,音楽に専念できるような環境を作りたい。といって今ぼくに何かめざましいことができるわけではないが,CDを買うとか,blogで紹介するとか,地道にやろう。
|
はっぱふみふみ
久保象『ジャンキー編集者』(双葉社)
筆者は大麻取締法違反でつかまった「少年マガジン」元副編集長。パクられるまでグラビア担当としていかに面白おかしくかつ真面目に仕事をしていたか,というのを虚実とりまぜて書き飛ばした本。作品の印象としては,80年代後半にちょっとはやった喜多嶋隆のCF愚連隊とかCFガールとか,あのへんに近い感じ。ハッパがからむ点が大きく違うけど。ちゃらちゃらした仕事だから,これじゃ反感買うのも当然だと思うし,正直言ってこの作品自体わりと単調で,完成度は高くないけど,やっぱりハッパを好む人は基本的に暢気で平和を好む人なんだ,というのが感じられて憎めない。覚醒剤に対する警戒の必要もちゃんと書き込んであるし,麻薬の知識がない若者が興味本位でこの本を手にとったとして,別に損にはならないと思う。パクられないための用心の仕方も参考になるし。
献辞が笑える。
「ウィリアム・バロウズ様
東洋の島国で暮らすただのハッパ好きが,「ジャンキー」という恐れ多い呼称を使うことをお許しください。」
だって。ちゃんとわかってんだから,タイトルはもうちょっと考えてほしかったなー。日本ではまだまだいろいろ誤解が多いだけに。
カバーに著者のメールアドレスが記載されているから,応援のメールを送ってみよう!kuboshow@nifty.com
|
筆者は大麻取締法違反でつかまった「少年マガジン」元副編集長。パクられるまでグラビア担当としていかに面白おかしくかつ真面目に仕事をしていたか,というのを虚実とりまぜて書き飛ばした本。作品の印象としては,80年代後半にちょっとはやった喜多嶋隆のCF愚連隊とかCFガールとか,あのへんに近い感じ。ハッパがからむ点が大きく違うけど。ちゃらちゃらした仕事だから,これじゃ反感買うのも当然だと思うし,正直言ってこの作品自体わりと単調で,完成度は高くないけど,やっぱりハッパを好む人は基本的に暢気で平和を好む人なんだ,というのが感じられて憎めない。覚醒剤に対する警戒の必要もちゃんと書き込んであるし,麻薬の知識がない若者が興味本位でこの本を手にとったとして,別に損にはならないと思う。パクられないための用心の仕方も参考になるし。
献辞が笑える。
「ウィリアム・バロウズ様
東洋の島国で暮らすただのハッパ好きが,「ジャンキー」という恐れ多い呼称を使うことをお許しください。」
だって。ちゃんとわかってんだから,タイトルはもうちょっと考えてほしかったなー。日本ではまだまだいろいろ誤解が多いだけに。
カバーに著者のメールアドレスが記載されているから,応援のメールを送ってみよう!kuboshow@nifty.com
|